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2008年09月30日

出発点/宮崎駿 (vol.2)

出発点―1979~1996出発点―1979~1996
宮崎 駿

スタジオジブリ 1996-08
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発想からフィルムまで/制作プロセス/宮崎氏のジレンマについて/スタジオについて等。
個人的には、作り上げる部分の話が好きかな。やはり決まった作りかたなんてないと。


企画が決定されて、作品の制作が始まるのだろうか、アニメーターの君はそのとき初めてその作品について、あれこれと構想を練るのだろうか。ちがう。もっとずっと前、たぶん君がアニメーターになろうとさえ思わなかった、もっとずっと前から、すべてがはじまっているのだ。(…)企画としての物語や原作、あるいはもっと幸福にもオリジナルな企画が計画されたとしても、それは引き金にすぎない。その引き金に触発されて、君がいままで自分のうちに描いてきた世界、貯えてきたたくさんの風景や表現されたがっている思想、情感が、君の中から湧き出てくるのだ。(P.56)


人が美しい夕焼けについて語るとき、急いで夕焼けの写真集をひっくり返したり、夕焼けを探しに出かけるだろうか。そうじゃない、記憶も定かでないとき、母の背で見た夕焼けの、意識の襞に深く刻み込まれた情感や、生まれてはじめて、”景色”というものに心奪われる経験をした夕焼けの風景、さみしさや、悩みや、心あたたまる想いにつつまれた、たくさんの夕焼けの中から、君は自分の夕焼けについて語るはずなのだ。(P.56)

他人が面白がりそうなものではなく、自分自身がみたいものでなくてはならない。ときには一大長編が、少女の首のかしげ方のイメージから始まってもいいのだ。混沌の中から君は自分の表現したいものの姿をおぼろげにつかまていく。そして君は描き始める。物語はまだできていなくてもかまわない。ストーリーはあとからついてくる。キャラクターを決めるのも、もっと後だ。1つの世界の基調となる絵を描く。(…)そして、「初めて描かれた絵」が生まれるのだ。(P.57)


どんな世界、シリアスなのかマンガ的なのか、デフォルメの度合は、舞台は、気候は、内容は、時代は、太陽は1つなのか3つなのか、登場する人物たちは、そして主題は何か…描き進むうちにしだいにあきらかになっていく。できあいのストーリーに従うのではなく、こんな物語の展開は?こんな人物は出せないか!幹を太くし、枝をひろげ、あの梢の先(それが発想の出発だったりする)、そしてその先の葉っぱへまで伸びていく。(P.57)


やがて虚構の世界の原形ができあがる。それがスタッフ全体の共通の世界になっていく。それはもう、そこにある世界なのだ!このプロセスがアニメーション制作過程で”イメージボード”と呼んでいる過程で、もっとも胸はずむ時期である。(P.58)


(マンガの原作がある場合)もっとも基本的な「世界を創る」作業は済んだ後であり(…)仕事としてはつまらないことを銘記してもよいだろうと思う。(P.58)


ストーリーボードを描き、作品の細部のプランを仕上げていく作業はアニメーターの仕事である。(…)ストーリーボードそのものが、ほとんどつくられなくなってしまった。かわりに絵コンテが生産され、アニメメーターの仕事は絵コンテのあとから開始されることになっている。(…)シナリオと演出のコンテにマンガ映画づくりの中心が移り、アニメーターは指示されたものを描き、絵を動かすだけの職業になっていく。机にむかって呻吟(しんぎん)し、ボードを描き、自分の考えに笑い、興奮し、ときにはのめりこんで涙したアニメーターたちはこうして退場していった。マンガ映画という言葉が光を失っていき、「アニメーション」になり、「アニメ」になっていく過程である。(P.59)


主題(テーマ)をはっきりさせる。(…)大切なことは、しっかりと裏づけのある人物たち、その人間たちが生きていることを肯定している人たちであること、その人間の願いや目的がはっきりとしていること、そしてできるだけ単純で無理のない筋の運び、だと思う。脚本がそれを踏まえてくれたなら、あとの飾りつけはアニメターの仕事だ。そのシーンの意味をはっきりつかみ、登場人物の考えていることを踏み台に、芝居やアクションを考えていく。極端な話、「A(主人公)とB(悪役)が最後に激しい闘いを演じてAが勝つ」だけでも脚本はいいのだと思う。それまでに、AとBがどういう人物で、なぜかくも激しく争わざるをえなかったかが、しっかりと描かれているのならあとはどれほど愉快に、あるいは爽快に決着をつけるかの工夫であり、多くの場合動きが決め手になるし、絵にしてみなければわからないことが多い。これこそ、アニメターの領域の仕事である。(P.62)


できあがった幹(脚本)に照らして、不必要なものを削りおとし、足りないものを補って、自分の頭の中にその”世界”を再構成する。はじめに考えたものと違った世界になっていることもあるはずだ。そして、その空間を自分の頭の中につくりあげる。風景や家の構造まで。これまでは自由気ままに描いてきたが、これからはその世界にしばられはじめる。(P.63)


1秒間24コマを4歩で走る、1歩6コマの走りがリズムがあって、一番無難だと思っている。地面から両足が離れる瞬間があるものを「走り」というのに、この基本形には空中の絵がない。(…)実際の人間の走りを分解して描き移しても、走っているようには見えない。現実の走りは、単純な線と色ヌリでは表現できない。筋肉のふるえ、髪の毛や衣服のはためき、肉眼では追いきれない肢の動きのはやさなどの微妙な場合によって成り立っているからだと思う。(P.67)


ディズニーの「ピーターパン」と東宝動画の「わんぱく王子」の空中シーンを比べてみよう。(…)飛行機からの、空間を移動する視点の体験をふまえたピーターパンでは、観客は、登場人物とともに、空を飛び、月の光が雲の影を落とす街のすばらしい展望に、開放感を味わう。自由な飛行を共有できるのだ。(P.74)


マンガ映画の中で、のりものが地を走り、水をくぐり、大空をかけるのは、人を、束縛から解放するためでありたいと思う。時速300キロ出せるスーパーカーが、300キロで走ったところで、金持ちは貧乏より金持ちだ、というのと同じである。マンガ映画の本当の面白さは、自転車が、スーパーカーと競争して、正々堂々と勝利を収めるところにあるような気がする。(P.77)


ひとつは、現在、週40本の作品が放映されていますが、はたしてそんなにアニメーションが子どもの生活にとって必要なものだろうかという考えです。もうひとつは、ものを作る人間の本能みたいなことで、おもしろいものを作りたいという考えです。この両方の間をゆれ動いているのです。ヒマになると、アニメーションはこんなにいるのだろうかと考え、しかし、目の前に仕事がくると喜んで「おもしろいものを作ろう」と考えるわけです。(P.78)


子どもが3歳のときは3歳の子どものために作ろうと思い、それが小学生になると小学生のためのものと作ろうとしていったんですね。(…)また、近所の小さい子どもにでもマトを変えようかと思っているんです。(…)昔話っていうのがありますよね。ああいうのもを読んでみるとわかるんですけど、一種の励ましなんです。(P.83)


いま、ぼくらは、豊かな貧困の社会の中で生きています。大量の音楽を聞き、大量の映像を受けとることができますが、どれほどそれが自分の感受性にうったえてくれるかといえば、それはほんの少ししかありません。それはちょっと考えればわかると思います。(…)ぼくにとっての土台は、なんのために生きていこうとするのかわからないままさまよっている人たちに、元気でやっていけよ、というメッセージを送ることなのです。現実は、なかなか、そうさせてくれませんがね。(P.84)


ある日、ぼくは子どもといっしょに釣りに行ったんです。そのとき、輪ゴムが必要なことを思い出し、子どもといっしょに林の中を探しにいったんですね。そのとき、僕も探したんですが、全然みつけられない。ところが子どもはすぐ見つけるんです。(…)とにかく、子どもというものは目の前に見えたものだけに気をとられるものなんです。(P.85)


映画の凋落というのは必然的に起こったもので、(…)映画の問題を映画復興というようなかたちで論じても仕方がないと思います。問題はいつの場合もいい作品がうまれるかうまれないかだけであって、いかにいい作品を生み出すかなんです。(P.90)


それでは僕自身、そうした文化状況全体のなかで、この量的な問題も含めていったいどうすればいいのかといえば、ほとんどジレンマそのものです。つまり、つくらないのがいちばんいいんじゃないかという気が一方でするのです。洪水にむかって、この水はきれいだからといってさらにバケツで水を加える必要があるのかという疑問がつきまとっています。しかし、その一方で、なおかつたまには洪水の中でもきれいな水飲まなきゃいけないはずだと理クツをつけたり、自分自身もそういうものが飲みたいという意識があって、目の前に仕事がくるとつい無我夢中になっちゃうといころもあるんですが、そこらへんのところで揺れ動いているのが現状です。ただ、僕自身としては、ものをつくる人間と消費する人間の関係といいますか、資本と労働の関係とか分配の問題とかも含めまして、そこであいまいな態度をとらないということを最低の根拠として仕事をしていこうと思っています。それでもチャンスがあれば仕事はできるだろうし、チャンスがなければチャンスが来るまで待つしかないというかたちで、自分を守り、自分を失わないようにして努力していきたいと思っています。(P.90)


シナリオライターにとっては、シナリオは自分の作品として完成すべきかも知れない。しかし、作品のすべてはフィルムにあるのであって、シナリオを含む全作業は、完成フィルムに到達すべき過程である。乱暴にいうならば、”フィルムさえできればあとはどんな方法でもよい”のである。私は、作品の作り方に、定まった方法も、決まった手順も存在しないと思っている。創りたい作品へ、造る人達が可能な限りの到達点へとにじりよっていく、その全過程が作品を創るということなのだ。(P.91)


現在一般化している分業化したスタッフの職種とかも、ある時期、ある場所の特定なものにすぎない。(P.91)


シナリオはたたき台にするしかない。(…)職務の領域は、集まった人間同士の力関係で決まる。(P.94)


まず作品の全体の方向、戦略目標(何を語るのか)、戦術目標(何を達成すべきか)、そして、そのための物語、時代、舞台、登場人物などのすべてを、有機的に組み立てなければならない。(P.95)


絵と文章の作業は有機的に同時進行すべきである。(P.95)


たたき台は他人が作ろうが、自分のものであろうが絶対に必要で、少しもこうではないと否定する思考の過程から、進むべき方向が見えてくることが多いのである。たとえ、1枚のペラにまとめられたメモでも、考え抜かれて生まれたものからは、流れるように絵コンテが生まれてくる。(P.98)


(すぐれたシナリオの書き方)表現したい核をはっきりと持っていること。それが物語の幹として、太くシンプルにつらぬかれていることであろう。観客の目に入るものは、梢であり、葉のきらめきである。シナリオに最も要求されるのは、大地に深く張った根、葉群にかくされた頑丈な幹なのである。葉を付ける必然の力を持つ幹さえあれば、あとデコレーションをぶらさげ、花を咲かせ、飾り立てるのは、みんあで知恵を出し合い、何とかなるのである。そしておそらく、最高のシナリオは、葉群やそこに這う虫まで、明瞭に書き込まれているものなのかもしれない。(P.100)


シナリオの書き方とか、映画の作り方とか嘘なんです全部。こういう物が作りたいという物があったら出来るんです。それだけは間違いない。(P.141)


・リミテッドアニメの批判
・空間と時間のデフォルメの批判
・貧乏という敵を失った後の動機の喪失
・アニメのゲーム化


作品のクオリティに関してはスタッフが責任を負うべきなんです。質を守るのならスケジュールも自分たちで管理できなきゃいけない。「今日は気楽に」「今日はまあいいや」って早く帰ってしまう日を減らす努力をしないとダメなんです。だからそういう意味でも、スタッフの総合力を維持していく努力をしなければいけないんです。ひとりやふたり、ひらめきのある優れたアニメーターを集めてもそれでは映画は作れないと思っています。非常に誠実で、地味だけど、粘り強いスタッフを胴体として持っていないと映画は作れないんです。その胴体をどう維持するかというと、やはりこの人たちによって映画が作られているということを、メインスタッフや経営者が意識しつづけて、その人たちを大切にすることだと思うんです。(P.118)


会社組織にするといままでのように、一作品終わったらしばらく休んでとかできなってしまうからややこしいですね。常時企画を考え、それができるかできないかを判断していける有能なスタッフをもっていないとだめですからね。それにスタッフを社員化して固定給にすると仕事のスピードが落ちますから。クオリティーとスピードとそれから新鮮な人材をいつも吸収できるだけの柔軟性ももっといなければならないですから。(P.122)


(新スタジオ建設について)やはり一箇所に集まって意思の疎通がはかれるようにしたいですから。だけどいくら探しまわっても、そいういう適当なビルがないんですよ。あれば借りますよ。(設計について)自分が演出をやっていく場合に、このほうが便利だろうと想像して設計しました。自分の机からヒョイヒョイと会議や、制作セクションの打ち合わせとか、仕上げのところや美術のところにいけるようにね。(P.126)

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投稿者 ryutaro : 2008年09月30日 08:16
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